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読書記録と好きな本の紹介。

友人とわいわい食べるご飯のお話

      2015/08/21

友達と一緒に料理したり、食事に招いたり。
そんなにお金も無いし、料理だってあまり上手じゃないけど、気の合う物同士が集まってわいわいにぎやかに食べる、おいしいご飯のでてくるお話です。

『哀愁の町に霧が降るのだ』のカツ丼

すなわち、鍋で炊いたゴハンの上に大きなフライパンで作ったトンカツと玉葱の卵とじ煮といったようなものを、そのままドサリと乗せたもので、それは見るからにヤル気とパワーに満ちた感動的なカツ鍋であった。

椎名誠の貧乏共同生活時代を描いたドタバタ青春エッセイ。
東京小岩の昼でも陽の入らないアパート克美荘に、男4人が集まって暮らし始めます。食事といえば高い食材を買えないので辿り着くサバ鍋やインスタントラーメンなどいかにも大雑把なんだけど、賑やかでおいしそうにみえてくるのが不思議。
その中でも記憶に残るのが特大カツ丼。
秋の晴れた日の昼ご飯、楽しみにしていたカツ丼屋がお休みでがっかり。諦めきれない面々はその夜、アパートでカツ丼を作ることに決めます。今までカツ丼を作ったことがある人は居ないけどなんとか出来上がり、六畳間の真ん中の食卓代わりのトランクの上に、鍋いっぱいのカツ丼がどんと置かれます。
(※カツ丼は下巻22章の「平和で裕福な秋の休日」に出てきます。)

『まんが道』のフランスパンのメンチカツはさみ

「ほら!これが僕の朝食
フランスパンのメンチカツはさみなんだ どうぞ」

藤子不二雄のコンビが漫画家になる道のりを描いた自伝的漫画。中公文庫コミック版で全14巻。
藤子・F・不二雄と藤子 不二雄Ⓐはそれぞれ才野茂と満賀道雄という名前のキャラクターで出てきます。
上京してきた二人は憧れの手塚治虫が住むアパート、トキワ荘にやってきます。もの慣れない二人にトキワ荘住人の先輩漫画家テラさんが部屋で振る舞ってくれた朝食が、このフランスパンのメンチカツはさみ。名前の通りフランスパンを切ってメンチカツを挟んだだけの簡単なものだけど、ガブっとかぶりついて「ンマーイ!」、これが食べてみたくなる。
ふたりが漫画に打ち込む生活の集中力がすさまじいので、ところどころに出てくる自炊の様子やチューダーパーティ、松葉のラーメンやたい焼きなどのおいしそうな食べ物が読んでるこちらにも息抜きになってほっとします。
漫画全体にある、昭和の生活を感じさせる描写(学校で配られる肝油ドロップや汽車など)にリアリティがあるのも、食べ物の美味しそうさを増している一因な気もします。
(※フランスパンのメンチカツはさみは中公文庫コミック版7巻に出てきます。)

『家なき娘』の狩猟小屋の晩御飯

大切なことは狩りと魚釣りだ、だつて卵もとれず魚も釣れないなら、食事は酸模のスープだけになつてしまふ、これではまことに野菜けばかりで貧弱すぎる。

世界名作アニメ「ペリーヌ物語」の原作です。
フランスのおじいさんの工場で孫であることを隠して工員として働くペリーヌは村のはずれの狩猟小屋で一人で暮らし始め、少ないお給料をやりくりしながら工夫して(靴やスプーンまで手作りという凄さ)身の回りを整えていきます。
そんなある日、ペリーヌは友人のロザリーを次の休日の晩御飯に招きました。
部屋に野の花を活け、お皿の代わりは大きな緑の葉。数日前から苦心して揃えたおもてなしのメニューは、自分で釣った鱸にたがらしの付け合せ、すかんぽとバタと野鳥の卵のスープ、まるすぐりの実のデザート。
友人がはじめて自分の部屋にやって来てくれる嬉しさと、自分の力でせいいっぱいのおもてなしの準備をする様子が、一人暮らしっておもしろそうと思わせてくれます。
(狩猟小屋の晩御飯は岩波版の下巻にでてきます。偕成社版では上巻。)
(注:引用は岩波文庫版からですが一部漢字を旧字から新字へ変えました。)

『餓鬼の飯』の五目ずし

「咲子さん、あんた、餓鬼の飯に、何と何持って行く?」
大事な相談事のように、正子は聞きました。
「私、お米と、干ぴょうと、凍り豆腐と、それからあ―」

「二十四の瞳」の壺井栄の、さらっとした、可愛らしい短編です。
タイトルの「餓鬼の飯」は小豆島の風習で、お盆の日に10~14才位の女の子が友だち同士集まっては、家の台所を空けてもらい子供だけで好きなものをお料理するというもの。
中学校の調理実習の女子のにぎやかさを思い出すようで、これは絶対楽しいだろうなあと、読んでてわくわくします。
咲子と正子と杉子と初代は、今年は四人で餓鬼の飯をつくる約束でした。しかし当日、初代さんが熱を出しておやすみしてしまったので、残りの三人は初代さんのところへ出来たご飯を持って行ってあげよう、と張り切ってつくりはじめます。

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